夏が近づく季節、母方の故郷・磐座(いわくら)で行われる長期キャンプに参加することになった奈智(なち)。それは、「虚(うつ)ろ舟乗り」の適性を見極めるためのもので…。美しくもおぞましい吸血鬼SF。『SF Japan』『読楽』掲載を単行本化。
※恩田陸(1964年宮城県生まれ。91年、第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となり、「六番目の小夜子」でデビュー。05年「夜のピクニック」で第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞受賞。07年「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞受賞。17年「蜜蜂と遠雷」で第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞。主な著作に「ネバーランド」「黒と茶の幻想」「上と外」「ドミノ」「ドミノ in 上海」「チョコレートコスモス」「私の家では何も起こらない」「失われた地図」など)

●エロティックな吸血シーン
主人公が磐座(関西?)に着いたシーンから始まるが、「ボックスシート」「網棚」「駅員に切符を渡し」「ボンネットバス」などという表現からすると、時代背景は昭和の中ごろなんだろうか。そして巨大な岩に彫られた「虚ろ舟様」。何となく、神話か民話のようなファンタジーっぽい世界から始まるのだが、見上げた空にはその「虚ろ舟」が上空を飛んでいる。え? UFO?
ここでファンタジーの世界から一気に本格SFとなる。「乗りたいなあ」。ほとんどの子供の将来の夢が「虚ろ舟乗り」だという。1万2500年後に太陽に呑まれる地球。そこに住む人々を救えるのは彼らだけなのだ。しかし、そのためには吸血鬼というバケモノに変質しなければならない。血を吸わなくてはならないのだ。さらにホラーへと物語は進む。
SFなんだけど、SFらしさを感じない、青春恋愛小説のようなドキドキしながらも心温まるストーリー。でも最後はやっぱりSF。580ページも苦にならない面白さだった。
吸血鬼というと「悪」のイメージで、血を吸われたいなんて誰も思わない。ところが、吸う方はもちろん、吸われる方、つまり提供者も快感を得ることができ、長生きもできるという。セックスと同じ。なので、吸血シーンもホラーではなくエロティックにさえ思えてくる。これが恩田ワールドなのか。

