劣等感を抱える猛夫は、いつか皆を見返してやりたいと思うように。理容師として独立、ラブホテル経営と、届かぬ夢だけを追い続けた男の行く末は。北の大地で生きる家族の光と闇を描く。『アサヒ芸能』連載を大幅に加筆修正。
※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。2013年「ラブレス」で第19回島清恋愛文学賞、「ホテルローヤル」で直木賞受賞。2020年「家族じまい」で第15回中央公論文芸賞受賞。主な著作に「氷平線」「硝子の葦」「ブルース」「氷の轍」「緋の河」「孤蝶の城」「ヒロイン」「彼女たち」「谷から来た女」「青い絵本」など。趣味はストリップ鑑賞)

●これぞ昭和の男と女の人生劇場
これでもか、これでもかと、桜木紫乃ワールドが炸裂。その辺で満足して刀を納めてはと思うけど、容赦はしない。うまくいきそうで、ダメになり、次はうまくいったかなと思わせて、また奈落へ突き落とす。まあ、もう書き方で展開が分かるんだけどね。
現状で満足せず勝手に前へ突き進む、といえば聞こえはいいが、結局は自分しかみえず、どうしようもないダメ男の猛夫を支えたのは、幼なじみの駒子と妻の里美。物語は戦中から始まり、歴史的事実を交えながら平成で終わる。その中で猛夫は次々と泥沼にはまっていくのだが、老いた猛夫と里美の心温まるラストシーンのひとことは、まさに昭和の男と女の人生劇場が凝縮されていた。こういう話に弱いのよね。それにしても駒子の女っぷりがカッコ良すぎる。
ラブホテルの名前には笑ったなぁ(^_^;
と、ここまで書いてようやく気づく。モデルは桜木紫乃さん自身の父親だそうで、作中に出てくる「ホテルローヤル」も実家のラブホテルがモデルだった。
父親が15のときに理髪店をたたみ、理髪師になるつもりだった桜木さんは将来を見失った。そこへいきなりのラブホテル開業だったという。その後は「小説ですから虚構で本当のことがあったりなかったりしつつ、最後はこういう人になるんだなと思いました」(「OTONA SALONE」インタビューより)。
続けて桜木さんは言う。「気づいたんですよ、あの時代は男も女も、女が生んで女が育てたんだってこと」。なるほど。だから女が活き活きと逞しく描かれているんだねぇ。

